ジャズの名曲とよもやま話が交差する玉手箱のような音友レコード倶楽部Jazz Dateを楽しみにしている参加者の一人です。
さて世の中には似ている曲が星の数ほどあるようで、この曲とこの曲は似てるよねと言っても「それがどうした」とジャズを良く知っている人に軽くかわされてしまうことが多いのですが、自分では聴き分けられなくて区別のつかなかった2曲が全く別物だった、という冷や汗の出る話をここに白状いたします。
その2曲というのは、ベニー・ゴルソン作曲の“フェアウェザー”と、サド・ジョーンズ作曲の“ミーン・ホワット・ユー・セイ”です。身近にいるジャズの先達にメロディラインが全く違うと指摘され、慌てて作曲者を調べてみると、なんとどちらも名曲で、折り紙付きの数々の名盤に収録されていました。
例えば、“フェアウェザー”は1958年の「Modern Art/Art Farmer」(アイキャッチ写真)では、アート・ファーマー(tp)とベニー・ゴルソン(ts)自身の華麗な2管のアンサンブルに、ビル・エバンズ(p)、アディソン・ファーマー(b)、デーブ・ベイリー(ds)が妙味を添えています。
一方の“ミーン・ホワット・ユー・セイ”は、サド・ジョーンズとメル・ルイスの競演デビューアルバムとして名高い1966年の「Mean What You Say /Thad Jones&Pepper Adams Quintet」では、サド・ジョーンズのフリューゲルホルンとペッパー・アダムスのバリトンサックスの深みのある甘美なユニゾンが実に心地よく響きます。クインテットのメンバーはメル・ルイス(ds)、デューク・ピアソン(p)、ロン・カーター(b)。
さらに“フェアウェザー”はケニー・ドーハム作の同名異曲もあるよと先達が教えてくれました!こちらは、映画『Round Midnight』の挿入曲で曲想がまるで違いました。チェット・ベイカーが歌って演奏しているアルバムなどありますが、紛らわしいしいことにチェット・ベイカーは同名2曲の“フェアウェザー”を変幻自在に様々なアーチストと演奏しています。例えば1959年の「Chet Baker in New York」(写真③)。メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ジョニー・グリフィン(ts)、アル・ヘイグ(p)、ポール・チェンバーズ(b)、フィリー・J・ジョーンズ(ds)。
ベニー・ゴルソンの曲には私の好きな曲がいくつも入っていて、中でも“ウィスパー・ノット”を改めて聴いてみると、またまた“ミーン・ホワット・ユー・セイ”との親和性を感じました。暖かみのある柔らかな管楽器の競演には理屈抜きで魅了されますが、それぞれの曲の特徴がわかるといっそう聴き惚れてしまうのでした。 by Chizuko Yoshii 06-13/2020