連載・ジャズの散歩道 by 瑠居剛史 〜連載1

■連載1.V-Disc について
第二次世界大戦で、米軍はヨーロッパ戦線に続く太平洋戦線に多くの将兵を戦地に送り込んだ。 大戦中の1942年8月1日よりアメリカ音楽家連合会 (A.F.M = American Federation Of Musicians) 通称「ミュージシャン・ユニオン」は、レコードに録音された音楽が全国に普及したため、演奏する職場を失ってしまった音楽家の失業基金と賠償を要求し、大手レコード会社を相手にレコーディング・ストライキを行った。
米軍部はこの期に、ミュージシャンへの救済手段と兵隊たちへの慰問と士気高揚を目的とした音楽の供給を果たすため、軍専用の音楽レコードを製作することを決め、このレコードをV-Disc ( VはVictory ) と名付けた。製作に当たり、既存のレコード会社に版権、所有権などすべての権利を破棄してもらい、条件として終戦と共に製作原版と戦線に配布した全てのV-Discを破棄することを契約。最初のV-DiscはRCAビクターのキャムデン工場で生産され、1943年10月に出荷し、生産終了の1949年5月までの905番まで、800万枚を全世界に配布した。音源は既存のレコード会社から出版されたものの他、軍用放送 (AFRS = Armed Forces Radio Service )、民間ラジオ放送、映画のサウンド・トラック等々、ジャズ、クラシック、ラテン、R & B、流行歌など多くのジャンルに及んだ内容だった。また、ミュージシャンはレコード会社の専属契約枠がなくなり、自由な組み合わせの録音ができた。
Frank Sinatra Label注)製作に当たり、民間放送音源のコマーシャル部分は当然カットされた。
V-Discレコードのサイズは12インチ(30センチ) で、SPレコードと同じ78回転ではあるが、1インチ当たりの溝が細く情報量が多いため片面6〜7分の演奏が収められた。
SP レコードの材質はシェラックでショックに弱く割れてしまうが、V-Discは前線にパラシュートでも届けられるように、割れないビニライトを採用した。
第二次世界大戦から50周年の年に、ミュージシャン・ユニオン及びレコード会社はこれらの音源を一般のLPレコード、CD化で市場に出すことに同意した。
よって、今時はV-Discを編集したCDを、容易に入手できる時代になっていいるのです。